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資質なき者の日記。         本質が赴くままアニメの感想や落書きを置きます。  エルダ・タルータ!
by honepanda
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TVアニメ「舞-HiME」中心の二次創作サイトです。百合ばっかです。

カテゴリ
NOIR小話@無題
NOIRの小話です。

オリジナルの男性視点で、
ノワールさんたちは物語に直接関与しませんし、出番自体あまりありませんが、
それでも、おっしゃぁあ!読んで、思いっきり罵倒してやるぅ!という神は
↓のクリックしてドゾー(ありがとうございます)




無題



 しっとりと濡れた草葉の湿りが空気を濡らせ、冷気が頬をくすぐる。辺りを包み込むのは黒い影に塗りつぶされた無数の木々。その隙間から青白い満月がちらついて見える。


 現在の時刻は午前2時26分。約束の時刻は確か3時ちょうど。


 ヴァンセンヌの森の外れで吸う煙草は格別だ。美しいパリの空気を汚すのが何とも俺の仕事らしいじゃないか。森で煙だなんて非常識だとアイツは説教たれてたが、もうそいつもいないんし何よりも今日は特別な日なんだから別に構いやしないだろう。いざとなれば目の前に広がる湖の中に捨てちまえば良いだけだ。
 天国にいるアイツは眉間に皺でも寄せてるのだろうか。いや、アイツがいるのは地獄か。
 人殺しの癖に変な所でモラリストだったからな。神様も中途半端な奴の扱いに困ってるだろう。個人的には地獄に行って欲しいもんだが。だって予約しといた俺の隣の席にアイツがいないと寂しいからな。お前がどう思うかは知らないけど俺たちは最高のパートナー、だったから。一時期ノワールとでも名乗ろうかと本気で考えていた程に。ただ残念だから俺たちは世間の殺人代業者に比べタダのチンピラに過ぎなかった。
 こういったごちゃごちゃとした沢山の思いや考えは煙草の煙のようにパリの夜の空気の中にに溶け込んでいき、やがて天に昇ってやがて銃声という名の雨と共に地面に血を染み渡らせて―――


時計を確認してみる。午前2時28分。


「誰だい」
 ジャケットの内ポケットに右手を滑らせ硬い銃身を手の平にのせながら問う。俺から僅かに離れた木の向こう側にある気配が強まる。これに殺気でも感じたら即効発砲と行くが不思議なことに俺が感じたのは、ただそこに人がいる、という事実だけだった。
 わずかな沈黙。
 そしてやがて一人の少女が闇の中に浮かび上がって来た。


 午前2時29分。


 そこにいたのは素朴な東洋人の女の子だった。この時刻にこの場所にいるには余りにも不自然な存在。しかし彼女が纏っている僅かな火薬の匂いが紛れも無く少女がこの場に相応しき資格の持ち主であると主張している。
「こんばんは、お嬢ちゃん」
 何はともあれ出会ったら先ずは挨拶だ。銃を再びジャケットにねじ込み、空いた手を上げる。俺は君とドンパチするつもりはないよ。
「……こんばんは」
 俺の意図を察してくれたのか少女の方も軽く会釈し、こちらに近づいてきた。その手には何もない。しかしきっと彼女を身を包んでいる白いパーカーの奥には黒い塊が眠っているのだろう。


 午前2時34分。


 気がつけば俺と少女は並んで腰を下ろし湖を見つめていた。ほのかな青みを帯びた水面に映っているのは俺と少女と、そして月だった。湖畔の上の俺たちは仲良くゆらゆらと形を失くして崩れたり、また元の形に戻ったりを繰り返している。
 年食った男と少女の組み合わせ、か。まるで映画のようだ。アイツに付き合って何度か見たな。モラリストではないけどロリコンでもない俺には関係ないことだが。
「ここには一人で来たのかい?」
「はい」
「ずっと一人でいるつもり?」
「いいえ、……友達を待ってるんです」
「ふーん、そう約束したのか?」
「はい」
「奇遇だな、俺も友達とここで約束したことがあるんだ」
 手元にある小石を適当に掴む。それはすっぽりと俺の手の平に収まった。すべすべと俺の手から逃れようと滑るそれを握り締めて湖に向かって振り投げる。


 午前2時42分。


 ぽちゃりと音を立てて小石は水面に波紋を刻みながら消える。それが石の最後の姿だった。少なくとも俺の視界の中では。
「……待ってるんですか? その人を」
「いいや、もう待てない。アイツは来れない」
 今頃、小石はきっと暗く濁った湖の底へと堕ちてるのだろう。
 ゆっくりと、無音のまま、どこまでも。
 アイツは堕ちている、はず。
 その先には何があるのか。いっそ堕ちきれば地獄へと辿り付けるかもしれない。
 マグマがある所は地獄で、そこは悪い子が向かわねばならぬ場所だ。
 そして、恐らく、きっと、俺も。
「君はどうする?君のお友達は来ないなら」
「待ちます」
 こいつは驚いた。今までボソボソと話していた子がこんなにハッキリと大きな声でいえるなんて。
「来れなくなったら?」
「迎えに行きます」
「そこがとてもとても遠い場所でも?」
「はい」
 少女の言葉一つ一つはまるで真っ直ぐな視線がそのまま言葉となり彼女の口から出て来たようだ。
 羨ましいものだ。俺もはっきりとそう言えたら、どれほど良かったろう。
「どうしてそこまでするんだ?」
「ミレイユも迎えに来てくれたから」
「彼女がそうしなくても?」
「はい」
 ズボンにクシャクシャに潰れた煙草を一本取り出し火をつける。煙が目を掠めて視界を奪い、ほろ苦いニコチンが咽喉を通り抜けて脳髄に達し思考を麻痺させる。
 いや、そうなることを望んていただけだ。煙は少女の吐き出す言葉で吹き消されて。
 そして、そして。
 どうしようもなく、アイツの顔だけが、ちらちらと俺の視界と思考を支配する。

 アイツには余計な才能が二つあった。
 一つは道行く男たちの殆どを振り向かせる美貌。おかげでこんな職業に顔を覚えられちまう。
 もう一つはアイツにはスリの才能があった。俺が目を離せば直ぐに何かを盗ってしまう。だから俺は出来るだけアイツと一緒に行動しようしたけど。
 キッカケはコピー用紙。カフェテリアで銃殺に遭った黒いスーツの男がいたらしい。ちょうど俺と待ち合わせをしていたアイツもそこにいた。沢山の野郎どもがアイツを覚えていた。殺された男の連れも去っていくアイツの顔を、見ている。
 そしてアイツの手にはコピー用紙。ソルダ、と書いてあった紙切れ。
 その後は散々だった。
 俺に依頼が来た。一人の女を殺せ。金額は二ヶ月溜まったボロアパートの家賃を返せるぐらい。久々の依頼で、普段より額もある。断る理由もない。どこかの誰かもわからない女の顔が映っている写真をジャケットのポケットに捻じ込んで、依頼の場所へ。
 そこはカフェテリアだった。写真の女は、いない。
 代わりに、いたのは。
 ジャケット越しにも関わらず背中に冷たい銃の先が俺の背を押し寄せるのを感じた。振り向く余裕すら与えない。
 あの女を殺せ。
 目の前にはアイツが、俺の姿を見つけたアイツが不機嫌そうな顔で近づいてくる。その傍には知らないガキがいる。目元が赤らんでいて、いかにも僕は迷子ですって面だ。
 神様、勘弁してくれ。
 無機質は銃口は俺の背中に納まったままピタリとも動かない。その代わり俺の右手が動いて銃を取り出して。
 そのまま後ろを振り向いて訳わからない男を撃ったら俺はヒーローにでもなれただろう。
 だが、残念なことに俺はチンピラに過ぎない。
 押されたら倒れる。自然の道理に従うしかなかったんだ。

 あの時は、午後3時のうららかな昼下がりだった。

 アイツには厄介な性格が二つあった。
 一つは素直じゃない所。人殺しが嫌な癖にどうして俺についてくるんだ。俺はただのお前の客に過ぎなかったのに。そのくせベットの中ですら笑わない。
 もう一つはどうしようなくモラリストな所。人殺しの癖にどうしてそんなに優しいんだ。
 馬鹿だ。お前はただの馬鹿だ。
 ガキのちゃちな命ぐらいどうでもいいだろうに。そいつを撃って目を眩ませれば良かったんだ。本当はガキだって殺すつもりは無かったんだ。少し、怪我をさせるだけだったんだ。
 弾がアイツの身体を貫いた途端、今度は幾多もの殺気が俺の身体に突き刺さった。
 仲間が、いやがったんだ。考えてみれば当然だ。
 アイツはアイツは。この馬鹿女は。
 神様、勘弁してくれよ。
 


 午前2時51分。


 静かだ。何も聞こえない。まるで何もないようだ。月も星も木も湖も少女も闇に取り込まれて存在が聞こえなくなったようだ。
 濁ってるのは俺だけで、そんな俺もやがて。
 でもこれだけは訊いておかねば。

「どうしてそこまで出来るんだ?」
「大好き、だから」

 大好きな友達だから。
 今度は言葉が少女の、それはそれは可愛らしい笑顔を紡ぎだした。


 あいつが死んだのは、午後3時2分だった。


 神様、勘弁してくれ。
 馬鹿。下手なモラリスト女め。
 優しくなりたいなら俺なんかに。人殺しな俺なんかに。お前を殺した俺なんかに。
 
 笑いかけるんじゃねぇ。


 左手に巻かれた腕時計は午前2時56分を示している。


「さて、ここでサヨナラといこうか」
「はい」
 立ち上がって俺は少女に右手を差し出す。別れと、これからもよろしくの挨拶。少女も右手でそれに答えてくれた。硬い感触。同業者だからこそ気づいてしまう事実。
 だが、そんなことはどうでも良い。これは俺がどうこう言う問題じゃない。
 この子には大切な友達がいる。ミレイユとやらと一緒に闇の中で手を繋ぎあわせば離してしまうことも、きっとない。
 

 午前2時58分。俺の隣には誰もいない。

 そういえば煙草を吸ったまんまだった。面倒だから湖に捨てちまおうかとも思ったが俺は携帯用の灰皿を取り出してそこに吸殻を入れた。
 最後くらいは善良なるパリ市民になってみよう。案外、気持ち良いものだ。


 午前2時59分。

 俺は死にかけたアイツに一言、愛してると言いたかった。言うべきだった。
 素直じゃなかったのはきっと俺だ。俺がそれを言えばアイツは持ち前のモラリストぶりを発揮して俺を何とか陽の出る場所へと引きずり込んだだろう。
 今、行くよ。迎えに行くよ。
 お前の命の値段はボロアパート二ヶ月分だった。だけど安心しろ。お前を殺した男の値段はその何倍だ。相乗効果でお前の方も跳ね上がりだぞ。
 ずっと探してた。お前がいなくなった時から。ボロアパートなんて出て、ずっとずっと探してた。
 最高の殺し屋って奴を。噂のノワールって奴を捜して依頼したんだ。
 やっぱり噂どおり仲良しの二人組みだったぜ。闇の中でも互いを光を感じることが出来るような素敵な関係だ。
 そんな二人に殺される俺の命はいくらだったと思う?きっと訊いたら無愛想なお前の顔も驚きで開いた口が塞がらないはずだ。楽しみだ。俺がそっちに行くまで考えてみな。

 今、行くから。だから待っててな。

 愛して―――

 最後に聞こえたのは乾いた二発の銃声。
 一発は俺の時計の針を止まらせ、続いたもう一発はその針を粉々にした。


 そして壊れた時計は暗く濁った地獄の淵へと。

 
 最後に示した時刻は、午前3時。
by honepanda | 2005-09-12 23:17 | 妄想小話
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